歩いても、歩いても

Film:© 清水茜/講談社 © 原田重光・初嘉屋一生・清水茜/講談社 © 2024映画「はたらく細胞」製作委員会
横山家の台所では母のとし子と娘のちなみが立っている。ちなみは車のセールスマンの信夫と結婚し、ふたりの子供と4人でやってきた。そして彼らに遅れて横山家の次男、良多が妻のゆかりと彼女の連れ子のあつしを連れて久々に実家に戻ってきた。父親の恭平は開業医だったが、今はすでに引退している。今日は横山家の長男の純平の命日だった。いつもは老夫婦だけの横山家は、その日ばかりは活気に満ちていた。その日の午後、良多一家ととし子は純平の墓参りに出かける。海を見下ろす墓地は山の上にあり、とし子は「毎年来るのがつらくなる」とつぶやく。家に戻るとひとりの太った青年が来ていた。純平は15年前に、彼を救おうとして海で溺れて死んだのだ・・・・
今回、長文です・・。まずは、個人的な話から・・。亡くなった父が、時々私の夢に出てきます。それはいつも同じような光景。その時の父は若くて、父の膝の上には幼い妹がちょこんと座っている。母は果物の皮を剥いては皿にどんどん積んでいく。私はテレビを見ながら母が剥いた果物を齧っている。これと言って事件は何も起きない。だけど、そこに居ることがなんだかとっても心地良いのです。この映画を見た時、その夢がこの映画のデ・ジャ・ヴュだったかのように思えた。横山家の食卓と我が家の食卓がよく似ているのだ。しかし、この映画を見て同じ感慨を抱いた人は少なくないと思う。特に私くらいの年齢の人に多いのでは??そんな横山家の風景に、吸い込まれるように私は映画の世界に入り込んでいった。しかし、この映画はそれだけでは終わらないのです。どの家族にも多かれ少なかれ問題があると思いますが、この横山家も同様。しかし、この日は婿、嫁、孫がいるため本音を隠しているが、徐々に本音が見えてくる。言わなくても良い事を勢いで言ってしまうのが、この映画の場合だと母親のとし子。そして私は特に胸を打たれたのはずっと父親に対して意地を張ってきた良多が、1日家族と一緒にいて色々と悟るんですね・・・。男は特に感じる部分だと思うのですが、自分が子供の頃の父親は「強くて、怖くて・・」というイメージだけど、いつしか父親より強くなっている自分がいるんです。そしてこちらから手を差し伸べて支えてあげる時が来るんです。良多もそれを噛み締めるんですね・・。この映画は私の人生の中の、ある1日を切り取ったような映画です。そしてその日はいつまでも私の心の中に住みついている。主演の良多を演じるのは、ガラリと違う役を見事に演じきった阿部寛。彼の妻役は夏川結衣。そして素晴らしい演技を見せるのが母親役の樹木希林と父親役の原田芳雄。彼らのコラボは最高の取り合わせです。そして監督は名匠是枝裕和。最高の映画です。