52ヘルツのクジラたち
©2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会
とある海辺の町に引っ越してきた貴胡。ここはかつて彼女の祖母が住んでいた町だった。彼女は住民の干渉を避けて、ひとり黙々と日々を過ごす。そんなある日、貴胡は1人の少年と出会う。ボロボロの服、伸びきった髪の毛の彼は自分の名前は「ムシ」だと言う。そんな彼を見て居ても立ってもいられなくなった貴胡は彼を自分の家に連れて帰る。服を脱がすと彼女が予想していた通り彼は痣だらけだった。かつては貴胡も家族からの虐待に遭っていた。そんな彼女の心の痛みをしっかりと受け取り、寄り添ってくれたのは安吾だった。しかし、彼もまた、大きな秘密を抱えていた・・・。
52ヘルツのクジラとは他のクジラより高い周波数で鳴くためコミュニケーションができない孤独なクジラの事。まさに、この映画のキャラクターたちのよう。作品自体はけっこう辛い話ではあるのですが登場人物たちの想いが心に染み渡る。DV、育児放棄、LGBTQなど、それぞれが抱える問題は違えど、ひとりぼっちで抱えていた苦悩を分かち合う人ができた時、心に拠り所ができた時、人生には小さな光明が見えてくる。そんな小さな希望にすがる事も生きていく上ではとても大事な事だと思います。それにしても「ムシ」と呼ばれているなんて、この少年は不遇過ぎる・・・。そしてこの映画はキャストが素晴らしいです。貴胡役は杉咲花。彼女の泣きの演技は天下一品で、私もつられて涙がポロポロ。安吾役は志尊淳。原作を読んでいたので彼の秘密は知っていたのですが、難しい役を見事に演じきりました。そして脇役ではあるのですが2人の若い女優がインパクトを残します。ひとりは貴胡の親友役の小野花梨。彼女の友情がなければ貴胡は救われなかったでしょう。もうひとりは育児放棄をする最低の母親を演じる西野七瀬。強烈なインパクトでした。監督は名匠・成島出。